POINT NEMO長編SF小説|永利 光
連載を読む
星の海を進む船、 地球とは思えない海、 謎の六角柱。 そもそも船だと思ったのは なぜだろう。 第一部「理解を超えた何か」より
A NOVEL BY HIKARU NAGATOSHI

POINT NEMO

江戸の測量方、タイタンを描く男、
タイタンへ向かう十七歳の操縦士。
三人が同じ六角の形に出会う。

カッシーニ撮影(近赤外を加えた強調色)|靄の下に、地表がかすかに透けている|NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute

1828年、種子島の岩屋で、測量方が岩に埋もれた六角の柱を見つける。 2025年、同じ島に、タイタンの海をかたどる作品が建つ。 2285年、タイタンの海の底で、十七歳の操縦士が強い光に包まれる。 三つの時代を、ひとつの形がつないでいく。

1828種子島
2025種子島
2285タイタン
1828
第一部

種子島

岩屋の奥で、六角の柱に触れる。

千座の岩屋。測量方・永利惣右衛門が、岩に埋もれた六角の柱と出会う。それが何であるかを、惣右衛門はまだ知らない。知らないまま確かめ、記し、口伝のとおり、そのままにする。江戸の終わりの島で、静かな探索が始まる。

冷たい。そして、破片の割れ目とは反対側の曲面は、どこにも凹凸がないとても滑らかな触り心地だった。
これが空から降ってきたのか。

第一部「六つの破片」より
夜の円形の敷地の中心に立つ標と橙の灯り。インスタレーション作品の遠景

この作品は、種子島に建っている。
円環の中心に、ひとつの標。
小説の第二部は、この作品を作る日々を描く。

「未知の無知 − タイタン|Unknown Ignorance − TITAN」山上渡 × 永利光|種子島宇宙芸術祭2025・宇宙ヶ丘公園|
2025
第二部

種子島宇宙芸術祭

タイタンの海を、島の上にかたどる。

現実の種子島でも、美術作家・山上渡と著者は同じ構想を十年計画で展開している。作品は、この小説と呼応しながら育っていく。

「僕」とアーティスト・ワタルは、タイタンの海をおよそ四三万分の一でかたどる作品を島に建てる。レーダーが捉えた、本物の海の形を、この手で。やがてその作品は、作り手の知らない何かと響きはじめる。

安全鋼板のおかげもあって、目の前はタイタンでいっぱいだった。そんな経験は誰もしたことないだろう。
地球上で、この3人だけが、この景色を見ていられる。

第二部「ライトアップ」より(抜粋)
鋼板の囲いの内側。橙の灯に照らされた、タイタンの海をかたどる地形
「未知の無知 − タイタン|Unknown Ignorance − TITAN」
山上渡 × 永利光|種子島宇宙芸術祭2025(テーマ「予感」)・宇宙ヶ丘公園
鋼の囲いの内に、タイタンの海の地形が横たわる。
レーダーが捉えたタイタンの海、リゲイア海。金色の大地に黒く横たわる
作品が写し取った、本物の海|リゲイア海
川筋を集めて、黒く横たわる。分厚い靄の下の、ほんとうの海。
Cassini RADAR|NASA/JPL-Caltech/ASI/Cornell

種子島宇宙芸術祭2025 作品ページ(satfes.jp)↗

2285
第三部

タイタン

クラーケン海の底で、強い光に包まれる。

橙の靄の下に広がる、黒い鏡のような海。タナカ輸送社の宇宙船スターダストで、研修中の十七歳、レイ・タナカは、クラーケン海の人工島をめざす。

地球人類以外に文明を築いていた生命体が存在し、それが地球文明よりはるかに高度な水準に到達していたことなど、誰が信じられるというのだろうか。

第三部「海に浮かぶ人工島」より
降下中のホイヘンスが高度ごとに捉えたタイタンのパノラマ。川筋の刻まれた大地
降下|ホイヘンスが見た大地(2005)
高度ごとに開けていく、川筋の刻まれた地表。着陸までの、ほんものの眺め。
Huygens DISR|ESA/NASA/JPL/University of Arizona
土星と環の一線を背に、タイタンの靄を透かして見える衛星ディオネ(自然色)

ここは、想像の星ではない。零下百八十度の海をたたえる、実在の星。
地球から、およそ十四億キロ。光でも、片道におよそ八十分。

最も遠い場所が、
最も近い場所になる。

カッシーニ、2011年5月21日(自然色)|衛星ディオネが、タイタンの靄を透かして見えている|探査機が環の面のすぐ上から撮ったため、環は細い一線として写る|NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute
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物語は、もう始まっている。

連載中|第一巻(約十六万字)は2026年11月、刊行予定。